姫金魚草
逢坂による二次創作テキストブログだと思います。 三国志大戦(懿丕、礎郭淮) 戦国BASARA3(家三、チカナリ) その他三国、戦国妄想をだらだらと。
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うそつきのひ(求心×丁夫人)
「あなたのことが、きらい」
いきなり何をわかりきったことを言いだすのだろう、と思った。
だから答えに困ってしまって、孟徳は少しの間間抜けな顔をさらしていたと思う。原因はいつもの無表情で、何を考えているのかわからない目を孟徳に向けている。
嫌われているのを、否、嫌われてしまったのを、知っていた。
なにせ最愛の息子を犠牲にして生き延びた夫だ。嫌うなと言う方が無理であろうし、孟徳としてもどうにも顔を合わせづらいと言うのが本音であった。
なにか、答えなければ。
そう思って、孟徳は言葉を探した。けれどやはり、自明の理だ、としか思えなかった。
だから孟徳は、ため息とともに答えた。
「今更なんだ。――知っているさ、そんなことは」
若しかしたら少し、うんざりしたような声になっていたかもしれない。丁の碧の瞳が、ほんの少しだけ陰ったように見えた。
錯覚だろう。孟徳はそう決めつけて、逃げるように踵を返した。
* * *
昔の自分たちは、こうではなかった。
丁は優しく笑う娘であった。ほんの少しだけ言葉が拙く、間延びしたような話し方になるのも、可愛らしいと思っていた。その喋り方で愛を語られると、なんだかひどく一生懸命に求められているような気がして、くすぐったくて嬉しかった。
「もうとく、」
丁が笑う。
「すき」
その、てろんと延びた平坦な声の響きを、たしかに自分は愛していたのに。
「父上。――父上!」
「! ん、……なんだ、子桓」
思い出はいつも温かく優しい。そして現実は冷たく厳しい。
目の前の息子は苛立ったように息を吐いて、「なんだとはなんです、――手が止まっているようですが」と、冷たい眼差しを向けてきた。
「はいはい、……そういうお前だって、さっきいきなり出て行ったじゃないか」
さぼっているのはお互い様だと、そういうつもりで言った言葉に、子桓はひくりと眉を跳ね上げた。
誰に似たのか、陶器のように白い肌に、朱が走る。顕著な反応に孟徳が目を見開く前で、子桓は吐き捨てるように言った。
「四月馬鹿です」
「――は?」
「仲達に見事に踊らされたというわけですよ。笑いたくば笑ってください」
四月馬鹿、と、頭の中で繰り返して、やっと孟徳は今日の日付を思い出した。四月一日、四月馬鹿。
「――なんだお前、司馬懿に騙されたのか! あーだからそんな機嫌が悪いのか、俺に当たるなよ」
「当たってなどいませんよ」
何をどう騙されたのかわからないが、しばらく司馬懿は子桓から無視されるかいじめられるかの日々が続くだろう。目の前の息子はそれくらいにむすっとしていて、孟徳は遠慮なく笑ってしまった。
笑われてさらに眉間のしわを深くした子桓は、それこそ当てつけるように言う。
「父上こそ」
「ん?」
「騙されぬよう、気を付けるといい」
その言葉に、何かが含まれていたとは思えない。
子桓は何も知らぬで言っただろうし、どちらかと言えば、騙されてしまえ、と言いたげな響きの方が強かった。
けれど。
『――きらい』
孟徳の中で言葉が弾けて、碧の瞳の陰りが、ひどく鮮明に蘇る。
「……父上? ! 父上、どこに行くんですか」
四月一日。
この日にわざわざ訪れた彼女が、わざわざあんなことを言った理由。
それはもう――今となっては、ひとつしか、思いつくことが出来なかった。
* * *
「丁!」
「――」
探し回って、彼女の姿を見つけたのは、花の咲き染める庭の片隅だった。
ふわりと、柔らかな香りが鼻を突いた。春なのだと、思う。
「俺も」
丁はいつもの無表情のなかに、一滴の驚きをにじませて、こちらを向いた。
孟徳は、笑って、言った。
本当はさっき、返すべきだった答えを。
「俺も、お前のことが、『きらい』だ」
目が。
すう、と、零れ落ちんばかりに大きく見開かれて、孟徳の姿を映す。一瞬ののちに、丁の柔らかな頬が、朱を刷いたように紅く染まった。その顔は昔のように、柔らかく温かく、愛おしいものに見えた。
「丁」
手を伸ばした。
細い体は、抱き寄せられても抗わなかった。耳元に吹きこむように名を呼ぶと、丁は一瞬泣きそうに顔を歪めて、もうとく、と、孟徳の好きな声で、応えた。
(求心×丁夫人が好きです)
(王道ネタですみません。。。)
(子脩は30秒すれば戻ってくるから大丈夫だよ! よ!)
だから答えに困ってしまって、孟徳は少しの間間抜けな顔をさらしていたと思う。原因はいつもの無表情で、何を考えているのかわからない目を孟徳に向けている。
嫌われているのを、否、嫌われてしまったのを、知っていた。
なにせ最愛の息子を犠牲にして生き延びた夫だ。嫌うなと言う方が無理であろうし、孟徳としてもどうにも顔を合わせづらいと言うのが本音であった。
なにか、答えなければ。
そう思って、孟徳は言葉を探した。けれどやはり、自明の理だ、としか思えなかった。
だから孟徳は、ため息とともに答えた。
「今更なんだ。――知っているさ、そんなことは」
若しかしたら少し、うんざりしたような声になっていたかもしれない。丁の碧の瞳が、ほんの少しだけ陰ったように見えた。
錯覚だろう。孟徳はそう決めつけて、逃げるように踵を返した。
* * *
昔の自分たちは、こうではなかった。
丁は優しく笑う娘であった。ほんの少しだけ言葉が拙く、間延びしたような話し方になるのも、可愛らしいと思っていた。その喋り方で愛を語られると、なんだかひどく一生懸命に求められているような気がして、くすぐったくて嬉しかった。
「もうとく、」
丁が笑う。
「すき」
その、てろんと延びた平坦な声の響きを、たしかに自分は愛していたのに。
「父上。――父上!」
「! ん、……なんだ、子桓」
思い出はいつも温かく優しい。そして現実は冷たく厳しい。
目の前の息子は苛立ったように息を吐いて、「なんだとはなんです、――手が止まっているようですが」と、冷たい眼差しを向けてきた。
「はいはい、……そういうお前だって、さっきいきなり出て行ったじゃないか」
さぼっているのはお互い様だと、そういうつもりで言った言葉に、子桓はひくりと眉を跳ね上げた。
誰に似たのか、陶器のように白い肌に、朱が走る。顕著な反応に孟徳が目を見開く前で、子桓は吐き捨てるように言った。
「四月馬鹿です」
「――は?」
「仲達に見事に踊らされたというわけですよ。笑いたくば笑ってください」
四月馬鹿、と、頭の中で繰り返して、やっと孟徳は今日の日付を思い出した。四月一日、四月馬鹿。
「――なんだお前、司馬懿に騙されたのか! あーだからそんな機嫌が悪いのか、俺に当たるなよ」
「当たってなどいませんよ」
何をどう騙されたのかわからないが、しばらく司馬懿は子桓から無視されるかいじめられるかの日々が続くだろう。目の前の息子はそれくらいにむすっとしていて、孟徳は遠慮なく笑ってしまった。
笑われてさらに眉間のしわを深くした子桓は、それこそ当てつけるように言う。
「父上こそ」
「ん?」
「騙されぬよう、気を付けるといい」
その言葉に、何かが含まれていたとは思えない。
子桓は何も知らぬで言っただろうし、どちらかと言えば、騙されてしまえ、と言いたげな響きの方が強かった。
けれど。
『――きらい』
孟徳の中で言葉が弾けて、碧の瞳の陰りが、ひどく鮮明に蘇る。
「……父上? ! 父上、どこに行くんですか」
四月一日。
この日にわざわざ訪れた彼女が、わざわざあんなことを言った理由。
それはもう――今となっては、ひとつしか、思いつくことが出来なかった。
* * *
「丁!」
「――」
探し回って、彼女の姿を見つけたのは、花の咲き染める庭の片隅だった。
ふわりと、柔らかな香りが鼻を突いた。春なのだと、思う。
「俺も」
丁はいつもの無表情のなかに、一滴の驚きをにじませて、こちらを向いた。
孟徳は、笑って、言った。
本当はさっき、返すべきだった答えを。
「俺も、お前のことが、『きらい』だ」
目が。
すう、と、零れ落ちんばかりに大きく見開かれて、孟徳の姿を映す。一瞬ののちに、丁の柔らかな頬が、朱を刷いたように紅く染まった。その顔は昔のように、柔らかく温かく、愛おしいものに見えた。
「丁」
手を伸ばした。
細い体は、抱き寄せられても抗わなかった。耳元に吹きこむように名を呼ぶと、丁は一瞬泣きそうに顔を歪めて、もうとく、と、孟徳の好きな声で、応えた。
(求心×丁夫人が好きです)
(王道ネタですみません。。。)
(子脩は30秒すれば戻ってくるから大丈夫だよ! よ!)
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