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姫金魚草

逢坂による二次創作テキストブログだと思います。 三国志大戦(懿丕、礎郭淮) 戦国BASARA3(家三、チカナリ) その他三国、戦国妄想をだらだらと。

   

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病むと言ふこと(馬謖×王桃←関索)

**病み関索

こどもなのだ、と幼常は思った。
むかし王桃が言っていたことを思い出した。わたしたちみんな、小さな子供みたいなものだったのだと。仲良く戯れて遊んで笑っていられればそれでよかった、と。
幼常からすれば、どうしてそんな男が出来上がるのかまるで理解が出来ぬ。言うと王桃は、少し考えて、答えた。
恵まれていたんだよ、と。
言った王桃は笑っていた。懐かしむように、悼むように。その顔を見て、幼常はひどく、胸が痛むような思いがした。
彼は途方もなく恵まれていた。容姿に、才覚に、生まれに、すべてに。そうして望まずすべてを手にした男は、なにかを欲すると言うこともどこかに忘れてしまったのだ、と。
『だからね、幼常』
王桃はおそらく、悼んでいたのだ。その表情はいま思えば、弔い以外の何物でもなかった。

『わたしはもう、あの人の所には、戻らないの』


「どうして桃は帰ってこないのかな」
罅割れたような声が幼常の追憶を遮って、目の前の男は歪に笑った。恵まれていたはずの男は、全てを手にしていたはずの男は、もはやその欠片も残さぬ姿をして見えた。姿かたちは変わらぬはずなのに。
こどもなのだ、と。
もういちど、幼常は思った。
「ずっと待ってるんだ。手紙を書いて――返事が来ないんだ。ねぇ、きみ、なにか知ってる?」
首を傾げる所作はまるで幼子で、その澄んだ瞳に宿る色にぞっとする。硝子玉のような目は、幼常を捉えているはずなのに、何を見ているのか理解していないように、不気味なほどに澄み切っていた。
欲せずともすべて手に入れることのできたはずのものが、その手から零れ落ちたとき。
男は悲しんだか。驚いたか。怒ったのか。
――そのどれでもないと、目の前の男が体現している。
「どうしたんだろう。悦も随分と姿を見ていないし……そういう遊びが流行ってるのかな」
男はただただ純粋に、理解出来ぬと嘆いていた。
そして男は恐らく、何を言われても納得できぬのだろう。
「遊びではない」
幼常はしぶしぶ、口を開いた。目の前の男が、話の通じぬ類の輩であることは、言葉を交わすまでもなく明らかだ。それでなくても、男は幼常に問いかける体で、答えぬ幼常を訝しむでもないのだ。
「王桃はもう、お前の所には戻らぬそうだ」
男は、ぱちりと、目を瞬いた。
男の目がやっと幼常を認識したと言いたげに焦点を結んで、そのすうとした瞳孔の動きの鮮明さに、幼常は僅かに息を詰めた。形の良い唇が動く。
「――どうして?」
「おまえと夫婦では居られぬと言った。いや――そもそも夫婦ではなかったのだ、と」
どうして自分がこんなことを言っているのだろう、と思う。けれど同時に、王桃がこの場にいないことに、心底から安堵する自分を知ってもいるのだ。
恵まれていた男だ。何を望まずともすべてを手に入れ、きらきらと美しいものに囲まれ、――たしかに彼の、そして彼らのありようは、夫婦のものであるはずがなかった。

『わかっちゃったんだもんなぁ』

王桃の言葉が、じわりと、幼常の胸に、沁みのように滲む。

『恋って、あんな、やさしいものじゃ――ないんだもん』

悔いるような声でそう言われて、どんな言葉が返せただろう。
言わせてしまったと――そう思うから、幼常はいま、ここで男と向き合っている。
「――僕を」
男の目に、敵意はない。ただただ純粋な疑問があるだけだ。
「謀ろうって言うの?」
言葉に、幼常はため息をついた。言うだろうと、思っていた。
この男は絶対に、信じない。
幼常は王桃のやさしい思い出話を聞きながら、恐らく真実は少し離れたところにあるだろうと、察していた。王桃は結局のところ、自分たちが過ごした日々のことを愛おしんでいる。その彼女では見えぬものが、話から、幼常にはきちんと見えていた。
たしかに男は、王桃の言ったように子供だろう。
けれどそれは彼女が言うような、恵まれ愛され幸福で、満たされて優しい天使のような子供ではない。
恵まれ愛され幸福で、満たされ過ぎて歪んでしまった、全てが自らの手中にあると信じてしまった、かわいそうな子供だ。
確かに彼と、その妻たちのありようは、夫婦のものではありえなかった。
王桃はそれを、昔馴染みと、友情と、言いたがっただろうが。
幼常には、わかっていたのだ。――すくなくとも彼の方では、それは、所有者と所有物の関係であった、と。
「そう思いたいなら、思うといい」
この会話は、どう足掻いても無為だ。目の前の男は狂っていた。見た目は美しく、言葉ははっきりとして、浮かべた笑みは形だけ見れば美しいけれど――目の前の男は、狂っていた。
「お前がどう思おうと、事実は変わらん。お前は王桃には会えない」
「どうして?」
「俺がいるからだ」
この男の所作を見れば、いかな王桃でも気づくだろう。自分が柔らかく弔った過去が、ただの幻想であったと言うことを。それは出来れば、止めたかった。
「お前に会えば、たぶんあいつは泣くのでな。それは出来れば避けたいのだ」
「? 嬉し泣き?」
本気で言っているのだろう。
幼常は深く、息をついた。思えばこの男も不幸なのだ。我儘な子供のままで生きるなどと、幼常には理解のできぬ生であった。幼常はもう言葉を諦めて、そっと、腰の剣に手を置いた。

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