姫金魚草
逢坂による二次創作テキストブログだと思います。 三国志大戦(懿丕、礎郭淮) 戦国BASARA3(家三、チカナリ) その他三国、戦国妄想をだらだらと。
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酒を飲む話1(礎×郭淮)
(中途半端)
酒を飲む話?
夏侯妙才は静かな男だ。
伯済は彼の笑い声どころか、笑い顔すら見たことがないような気がして、ほんの少し悲しくなった。伯済はこの自らが仕えることとなった将を、ちょっと自分でも不思議なくらいに敬愛していた。
妙才は酒が好きだ。
妙才は時折、書簡を開いている伯済の部屋にやってきて、酒瓶を軽く掲げる所作をする。伯済は酒が得意ではないが、断る道理はないので、いそいそと肴の準備をする。
酒を飲むが、場は宴とは言い難い静けさを保っている。妙才は寡黙な男だし、伯済は緊張して言葉が上手く出てこないのである。伯済に出来ることと言えば、妙才が言葉少なに尋ねる、専ら政務についての話題に、只管に答えることばかりであった。
そうしてついには話題も潰えて、丁度酒瓶が空くのを合図に、妙才は顔色一つ変えずに邪魔したな、と言う。伯済は笑っていえ、といらえる。ふたりの、酒宴とも呼べぬ静かな酒盛りは、こうしてやはり静かに終わりを迎える。
妙才の姿が消えるのを見送って、伯済はほうと大きく息をつく。なにか、粗相はしなかっただろうか。うまく、答えられていただろうか。その日はもう仕事どころではなく、酒の力もあってふわふわとした頭で、寝台の上でごろごろと転がる羽目になる。ああ、ちゃんと、笑えていただろうか?
そうしてその日も、妙才は酒を携えてやってきた。
妙才の身体は、どこをとっても武人として完璧に出来上がっている。伯済はその顔に滲む年月の皺を、太い腕と無骨な指先を、胡坐をかく脚の筋肉を見るたびに、ため息をつくような心地になる。自らが虚弱で、ひょろひょろと白く細い故かも知れぬ。
妙才の手が、その大きさに余りにも似合わぬ小さな盃を取る。伯済はゆっくりと、その盃に酒を注ぐ。最初は互いに手酌で飲んでいたが、妙才の盃を乾かす調子の速さに慣れて、伯済は自然と酌の機会を覚えたのであった。
沈黙が落ちる。珍しいことではないけれど、けれどこの静けさが場を包むたび、伯済は何かしゃべらなければいけないような気がして慌ててしまう。そうして口を開きかけて、はたと躊躇うのが何時ものことであった。
妙才は寡黙な男だ。
ここにこうして酒を飲みに来るのも、伯済が煩く喋らぬから、静かに飲めるからだったとしたらどうだ。
伯済がこの心のうちそのままに、つまりは煩い心音そのままに、口を開いてしまったら、よもや妙才はここに来ることを止めはしないか。
そう思うと、伯済のこころはひやりと冷える。そうして口は、なにも音を発せぬままに閉ざされてしまう。あとは妙才がその薄い唇を開くまで、冷たくはないけれど心もとない沈黙が、伯済を責めるように包むのだった。
「……」
その日、何度目か。
同じ繰り返しを経て、伯済は開きかけた口を閉ざした。その口元を、妙才の目が見つめていることに気付かぬままに、伯済はああ、と内心で悲嘆した。このようにつまらぬ相手では、喋るにしろ喋らぬにしろ、妙才はいずれここに飽いてしまうだろう。ああ、どうしたらいい、どうしたら。
伯済がひとり途方に暮れる前で、妙才はふ、と、息を吐いた。
伯済は、顔を上げた。
その息は、伯済が今まで聞いた妙才の口から零れたすべての音の中で、いちばん、笑みに近いものであるように思われた。
「……我が軍師は」
妙才は、その、笑みに近い吐息のままに口を開いた。伯済は自分がすっかり固まってしまったのを感じた。我が軍師。妙才は、己のことを、そう呼んだ。
「私の前では、ずいぶんと静かだ」
「……え」
その口調が、困ったようであるのに気付いて、伯済は動転した。困らせてしまった。どうしよう。困らせて、しまった。硬直から解けて、うろうろと視線を彷徨わせる。どうしよう。どうしよう。
「あ、あの、わた、……わたしは、その」
「落ち着け。別に、責め立てようと言うのではない」
妙才はまた、さっきのように、緩く息を吐いた。やさしい、息だった。
それでも伯済は、落ち着くことが出来なかった。やはり将軍は、ずっと困っておられたのだ。わたしが上手く喋ることも、会話をの穂を接ぐこともできないから。たいした受け答えも出来ぬでは、木偶が座っているのと変わりがないではないか。伯済はふと自らが泣きそうになっていることに気が付いて、俯いた。
子どものようだ。困らせた挙句に泣くしかできぬでは、ほんとうに妙才は、伯済に呆れ果てることだろう。それだけはだめだ。それだけは。
ぎゅう、と、目を閉じる。すこし、体が震えてしまったかもしれない。酔ったからだ。聞かれたらそう答えようと思った。声が震え無いように、は、もう、祈るばかりである。
果たして。
妙才は口を、開かなかった。気づいたときには、伯済の震える小さな頭の上に、なにか、温かくて重いものが乗っていた。
伯済は、目を見開いた。その拍子に、膝に、しずくが落ちた。ぽつりと、一粒だけ。
驚きすぎて、それ以上の涙は、引き戻されてしまったようであった。
「そのまま、聞いてくれるか」
思わず顔を上げそうになった瞬間に、妙才の声が動きを封じた。するりと髪を撫でられると、それだけでもう、伯済には身動きのとりようがなかった。あの、夏侯将軍の手が、自らに触れているなどと。なんだかあまりに過分である気がして、ほんの少しの動きでそれを邪魔することも、途方もなく恐ろしかったのである。
「私は謝らねばならぬのだ。――すまない、伯済」
夏侯妙才は静かな男だ。
伯済は彼の笑い声どころか、笑い顔すら見たことがないような気がして、ほんの少し悲しくなった。伯済はこの自らが仕えることとなった将を、ちょっと自分でも不思議なくらいに敬愛していた。
妙才は酒が好きだ。
妙才は時折、書簡を開いている伯済の部屋にやってきて、酒瓶を軽く掲げる所作をする。伯済は酒が得意ではないが、断る道理はないので、いそいそと肴の準備をする。
酒を飲むが、場は宴とは言い難い静けさを保っている。妙才は寡黙な男だし、伯済は緊張して言葉が上手く出てこないのである。伯済に出来ることと言えば、妙才が言葉少なに尋ねる、専ら政務についての話題に、只管に答えることばかりであった。
そうしてついには話題も潰えて、丁度酒瓶が空くのを合図に、妙才は顔色一つ変えずに邪魔したな、と言う。伯済は笑っていえ、といらえる。ふたりの、酒宴とも呼べぬ静かな酒盛りは、こうしてやはり静かに終わりを迎える。
妙才の姿が消えるのを見送って、伯済はほうと大きく息をつく。なにか、粗相はしなかっただろうか。うまく、答えられていただろうか。その日はもう仕事どころではなく、酒の力もあってふわふわとした頭で、寝台の上でごろごろと転がる羽目になる。ああ、ちゃんと、笑えていただろうか?
そうしてその日も、妙才は酒を携えてやってきた。
妙才の身体は、どこをとっても武人として完璧に出来上がっている。伯済はその顔に滲む年月の皺を、太い腕と無骨な指先を、胡坐をかく脚の筋肉を見るたびに、ため息をつくような心地になる。自らが虚弱で、ひょろひょろと白く細い故かも知れぬ。
妙才の手が、その大きさに余りにも似合わぬ小さな盃を取る。伯済はゆっくりと、その盃に酒を注ぐ。最初は互いに手酌で飲んでいたが、妙才の盃を乾かす調子の速さに慣れて、伯済は自然と酌の機会を覚えたのであった。
沈黙が落ちる。珍しいことではないけれど、けれどこの静けさが場を包むたび、伯済は何かしゃべらなければいけないような気がして慌ててしまう。そうして口を開きかけて、はたと躊躇うのが何時ものことであった。
妙才は寡黙な男だ。
ここにこうして酒を飲みに来るのも、伯済が煩く喋らぬから、静かに飲めるからだったとしたらどうだ。
伯済がこの心のうちそのままに、つまりは煩い心音そのままに、口を開いてしまったら、よもや妙才はここに来ることを止めはしないか。
そう思うと、伯済のこころはひやりと冷える。そうして口は、なにも音を発せぬままに閉ざされてしまう。あとは妙才がその薄い唇を開くまで、冷たくはないけれど心もとない沈黙が、伯済を責めるように包むのだった。
「……」
その日、何度目か。
同じ繰り返しを経て、伯済は開きかけた口を閉ざした。その口元を、妙才の目が見つめていることに気付かぬままに、伯済はああ、と内心で悲嘆した。このようにつまらぬ相手では、喋るにしろ喋らぬにしろ、妙才はいずれここに飽いてしまうだろう。ああ、どうしたらいい、どうしたら。
伯済がひとり途方に暮れる前で、妙才はふ、と、息を吐いた。
伯済は、顔を上げた。
その息は、伯済が今まで聞いた妙才の口から零れたすべての音の中で、いちばん、笑みに近いものであるように思われた。
「……我が軍師は」
妙才は、その、笑みに近い吐息のままに口を開いた。伯済は自分がすっかり固まってしまったのを感じた。我が軍師。妙才は、己のことを、そう呼んだ。
「私の前では、ずいぶんと静かだ」
「……え」
その口調が、困ったようであるのに気付いて、伯済は動転した。困らせてしまった。どうしよう。困らせて、しまった。硬直から解けて、うろうろと視線を彷徨わせる。どうしよう。どうしよう。
「あ、あの、わた、……わたしは、その」
「落ち着け。別に、責め立てようと言うのではない」
妙才はまた、さっきのように、緩く息を吐いた。やさしい、息だった。
それでも伯済は、落ち着くことが出来なかった。やはり将軍は、ずっと困っておられたのだ。わたしが上手く喋ることも、会話をの穂を接ぐこともできないから。たいした受け答えも出来ぬでは、木偶が座っているのと変わりがないではないか。伯済はふと自らが泣きそうになっていることに気が付いて、俯いた。
子どものようだ。困らせた挙句に泣くしかできぬでは、ほんとうに妙才は、伯済に呆れ果てることだろう。それだけはだめだ。それだけは。
ぎゅう、と、目を閉じる。すこし、体が震えてしまったかもしれない。酔ったからだ。聞かれたらそう答えようと思った。声が震え無いように、は、もう、祈るばかりである。
果たして。
妙才は口を、開かなかった。気づいたときには、伯済の震える小さな頭の上に、なにか、温かくて重いものが乗っていた。
伯済は、目を見開いた。その拍子に、膝に、しずくが落ちた。ぽつりと、一粒だけ。
驚きすぎて、それ以上の涙は、引き戻されてしまったようであった。
「そのまま、聞いてくれるか」
思わず顔を上げそうになった瞬間に、妙才の声が動きを封じた。するりと髪を撫でられると、それだけでもう、伯済には身動きのとりようがなかった。あの、夏侯将軍の手が、自らに触れているなどと。なんだかあまりに過分である気がして、ほんの少しの動きでそれを邪魔することも、途方もなく恐ろしかったのである。
「私は謝らねばならぬのだ。――すまない、伯済」
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