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姫金魚草

逢坂による二次創作テキストブログだと思います。 三国志大戦(懿丕、礎郭淮) 戦国BASARA3(家三、チカナリ) その他三国、戦国妄想をだらだらと。

   

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桃色かたおもい。1(馬謖×王桃)

**W挑発型桃園

とおくから宴の音が聞こえてくる。
男たちは酒を浴びるように飲んで騒いでいるけれど、王桃はあまり酒が得意ではないし、ちょっと性格の悪いところのある主は酒が入るとそれに拍車がかかる気がする。からかわれたくないものを抱えている身としては、関わらないでいるのが吉だ。
夜風は、少し冷たい。回廊から庭へと降りる階段に座り込んでいた王桃は僅かに体を震わせ、その瞬間にふわりと鼻先を酒精が掠めた。
「……、……!?」
「王桃ー」
王桃のむき出しの腕、小さな体をなにか温かいものが丸ごと包み込む。つん、と、酒の香りが強くなった。
うしろから、抱きしめられたのだ。
「なっ、……幼常!」
ふざけてるの、と、腕を上げようとしたけれど、酔っ払い特有の力の加減を忘れた腕に阻まれて、満足に身動きもとれやしない。なんでこんなところに、どうしてこんな、と、思考ばかりがぐるぐると巡って、言葉の一つも口から出せない。
熱いのは、酔っ払いの体温が、移っているからだ。
それ以上の理由なんか、どこにもない。
「おうとうー」
とろんとした声に呼ばれて、いつものように返すことが出来ない。馬謖は王桃の様子など斟酌する気配もなく、まるで猫の子にでもするように後ろからぐりぐりと頬を擦る様にしてきた。
「!」
「王桃は、かわいいなー……」
「!!!? なっ、何莫迦なこと言ってんの!?」
ひぅ、と、喉が鳴って、奇妙な声が出た。抱え込まれるように抱きしめられて、可愛がられるように擦り寄られて、平静を保っていられるわけがないのだ。驚いているだけだ、それだけのことだ。
「莫迦なことじゃない、真面目だ。やーらかくてかわいい……」
「っ! いい加減にしろこの酔っ払いっ!」
手が。
するりと滑り降りて、晒された肌に触れた。
その熱さが酒の所為だとわかっていても、王桃には限界だった。渾身の力を込めて立ち上がると、馬謖の顎を肩が変な風に掬い上げて、あぐ、と呻き声をあげて馬謖が仰向けに倒れる。
階段でそんな風に倒れたら、滑り落ちるが道理である。
「っ、わ、痛ッ」
「これで酔いも覚めたよね!」
馬謖とは逆に身軽く階段を上って、王桃はいつもの所作を思い出して舌を出しながら言った。ようやっと止まって王桃を見上げた馬謖の顔は、ぽかんとして情けない。
「酔っ払いには付き合ってられないよ。先に室に戻るから、劉備さんに言っておいてね!」
言い置いて、返事も聞かずに踵を返す。
一刻も早く、此処から離れたかった。
どんなに分かっていても――どんなに、聞こえるはずがないと、気づかれるはずがないとわかっていても、ばくばくとうるさい心臓の音や、真っ赤になってしまっているだろう顔を、馬謖に晒しておけるはずがなかったのだ。



「うう……」
「劉備さん、二日酔い? もー、出陣なのにしっかりしてよー」
「うむ……昨夜は聊か飲み過ぎたな」
顔を顰めてこめかみを抑える主に、水筒を差し出す。すまない、と受け取った主は、そういえば、と王桃を見た。
「昨日は大丈夫だったのか?」
「へっ!?」
大丈夫、とは。
無論思い出されたのは、酔っ払いに絡まれた一幕である。けれど劉備があれを知るはずはない。王桃は一瞬目を見開くも、あわてて笑って首を傾げた。
「? 大丈夫って、なにが?」
「いや、アレは酒癖が悪いから。――戻る前に、会っていたんだろう?」
「!!」
なんで、と言いかけて、劉備に伝えろと言ったのは自分だったことを思い出す。王桃は少し答えに困って、けれど結局、笑って流すことにした。
「んー? そうだったかなー、戻るって言っただけだったからわかんないな」
「そうか? ならいいんだが」
「ていうか、幼常って酒癖悪いんだ?」
なるほどあれは酒の悪癖のひとつ、抱き着き魔とでも言うものだったのだろうか。尋ねながら王桃は少し納得し、そして同時に、がっかりしている自分を知る。
「まぁ、良いとは言い難いな。――おっと、戦が始まるようだ」
主が前を向く。
開幕早々高知力に掘り当てられた馬謖にため息をついて、王桃はどうにか、ぐるぐるとする思考を追い出すことに成功したのだった。



「おーとうは、かわいいなー……」
「はいはい。あんたも飽きないよねー」
あの日から数回、宴のたびに同じようなことが繰り返されて、王桃は相手にするのが馬鹿なのだ、と言うことにようやっと気が付いたのだった。相手は酔っ払いで、自分が何をしているのかも碌にわかっていないし、翌日の様子を見るに覚えてすらいないのだろう。そんな輩を相手にして、真面目に怒ったり、意識したりするのも莫迦らしい。
内心でそう言う反面、けれど王桃は気付いている。
「んー……」
「なんでもいいけど、此処で寝たら放置するからね」
「んー」
いやだいやだとでも言うように首を振る。溜息をついて頭を撫でてやると、まるで甘えるような所作で頭を押し付けてきた。
「やだー幼常がキモいよー、って、いつものことか」
「キモいとはなんだ、キモいとは」
「無自覚!?」
一応、会話は通じるのである。返答は遅いし、言葉は間延びしていて、完全な酔っぱらいの体であっても。むう、とぶすくれた様子の馬謖に王桃は思わず笑った。
――本当は、ちゃんと、気づいている。
「そーいうこと言うのは、かわいくないぞ……」
「あたしは最初からかわいくないですよーだ」
「む。いや、かわいいぞ」
「なにそれ、どっちなのさー」
王桃は、ちょっと自分でも健気だなぁと思うくらいに、この時間をどうしようもなく愛おしんでいる。
馬謖にとっては酔いの儘の、たぶん王桃以外の誰の中にも残らない、ふわふわとした幻のような時間を、苦しいくらいに大切にしている。
実は王桃を包み込める腕と、温かい体と、蕩けたような声で紡がれる甘ったるい言葉を、全部全部、憶えておきたいと思っている。
「かわいい」
だって。
「王桃は、かわいいぞ」

だって、王桃は、どうしてかわからないけれど、どうしようもなく莫迦だと思っているけど、情けない奴だと思っているけど、ほんとうに、なんでかわからないけれど。

わからないけれど、馬謖のことが、好きなのだ。

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