姫金魚草
逢坂による二次創作テキストブログだと思います。 三国志大戦(懿丕、礎郭淮) 戦国BASARA3(家三、チカナリ) その他三国、戦国妄想をだらだらと。
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傷痕(礎×郭淮)
(初めての話になるはずだったのに、かなしいくらい健全です)
男の身体は傷痕で溢れていた。
ひとたび体を見れば、額の火傷痕など可愛らしいものだ。そう言ったのが誰だったか、伯済は覚えていない。しかし今初めて伯済は、その言葉を実感していた。目の前の身体が、何の問題もなく動いているのが、少しばかり不思議に感ぜられるほどの、ひどい、痕であった。
「……おそろしいか」
問われ、いらえようとして、伯済は自らが知らず息を詰めていたことに気が付いた。息を吐く音が、嫌に大きく聞こえた。伯済は、頷いた。
おそろしくないわけが、なかった。
けれど目の前の男が、その所作を見て顔を歪めるにあたり、伯済は自らが間違いを犯したことに気が付いた。あわてて、首を振る。
「いえ、いえ――ちがうのです、夏侯将軍」
「なにがちがう」
「将軍が、おそろしいわけではありません」
男が、すう、と、目を細める。信じられぬと言いたげな眼差しだった。そうして、伯済にだけ感ぜられるさみしさを顔に湛え、男は、言った。
「構わん。――恐れる方が、道理だ」
男は、床に抛り捨ててあった着物を、拾い上げた。なるべく見せぬようにとの所作で、伯済に背を向ける。たしかに表よりも傷の少ない背中は、しかし伯済をよけいに、どうしようもない心持にさせただけであった。
つまり、背に傷が少ない、その意味を。
どうしようもなく、伯済は必死で、手を伸ばした。
「――! 淮、何を」
伯済の白く細い手が、男の着物を掴む。男に比べれば児戯に等しい力で、けれど伯済は必死に、その着物を引っ張った。
「……淮、」
男が、困り果てた様子で、伯済を呼んだ。しかし伯済はふるふると首を振り、男が伯済を案じて力を込められぬのをよいことに、着物を手繰り寄せてぎゅうと胸に抱いた。
「こわく、ありません」
「……淮。こどものような真似をするな」
「こどものようでは、萎えますか」
「――は?」
「萎えるなら、――それが理由で、これを着て出て行かれるなら、お返しします」
わけがわからぬ、と言う顔で、男は伯済を見た。伯済は半ば睨むように、男を見返した。
「……萎えはしないが」
根負けしたように、男がばか正直にいらえた。そして、ため息とともに、言う。
「萎えたのは、お前だろう」
「何故です」
「……傷痕と言うのは、醜いものだ」
「みにくくなど、」
ありません、と。
答えた声が震えて、伯済は自分で驚いた。驚いた拍子に、ぽたり、と、抱いていた衣に染みが出来た。
「――淮」
男が僅か、狼狽えたような声を出した。その間にも、ぽたり、ぽたりと、どんどん、染みが増えてゆく。伯済は我が身のことであるのに呆然として、拭うことも出来なかった。
「……」
陰が。
伯済の細い体を覆うように、男が身をかがめた。伯済の手からそおと着物を取り上げ、無骨な指に似合わぬ繊細な所作で、伯済の目元に、衣を寄せた。
「意地を張るな」
男は、困ったような声で、言った。伯済はぼうと男の面を見て、その、苦く笑うような表情に、は、と、我に返った。そうしてあまりに勢いよく首を振ったせいで、男の手が、頬に当たる。
「っ、」
「だ、大丈夫か」
布が擦れて、頬がすこし、赤くなった。それだけのこと、直ぐにも消える程度のものなのに、男は奇妙なほどに慌てて、伯済の頬をそおと撫でた。
「すまぬ」
「な、んで」
あやまるんですか、と、伯済は、いっそ恨むような心持で尋ねた。男は、謝るようなことなど、なにひとつ、してはいなかった。謝らねばならぬのは、伯済のほうだ。
「怯えさせた上に、――傷まで」
「だから、違うと言っているでしょう!」
癇癪を起こしたこどものように、伯済は声を張り上げた。男が驚いたように目を見開くのを見て、伯済はむしろ怒りを駆り立てられたような気になって、さらに声を荒げた。
「あなたのことが怖いわけがない! どうして! こんなにもあなたのことが好きなのに! あなたを、怖がらなければならないんですか!」
「わ、淮」
「どうしてその、あなたの傷が、あなたが――戦い抜いて来た、証の傷が、みにくく見えると思うんですか!」
「淮、わかったから――」
落ち着け、と、宥める姿勢に入る男に、伯済は咬みついた。それはもう、言葉の通りに。
「――」
ぴり、と。
唇の薄い皮膚を破り、伯済の口の中に、男の血の味が広がった。伯済は、顔を歪めた。
「――こわいのは、」
伯済は、縋るように、男の肩に腕を伸ばした。
「こわいのは――その傷が、いつあなたを殺しても、おかしくなかったと言うことです」
あなたが。
しんでしまうのが、こわいのです。
伯済は、震える声で、そう零した。そのまま、男の肩に、うずめるように顔を寄せる。男はそおと伯済の身体に手を回して、やはりどこか、子供をなだめるような所作で、細い背中を撫でた。
「淮。……泣くな、淮」
「泣いてなど、」
「――我が軍師が、然様に泣くなら」
男は、ふ、と、男にはひどく珍しい、柔らかな息を吐いた。
「そう容易く、傷を負うわけにもいくまいな」
「……」
ぎゅう、と、伯済は男の体に回した腕に、力を込めた。
男が、こう言ってくれたのだから、もう、泣いてはいけない。
そう思うのに、涙はあとからあとから溢れだして、男の裸の、傷だらけの胸に落ちて、まるで今更に傷をいやそうとするかのように、つ、と、流れ落ちていくのだった。
(だけど礎は撤退計略ですというアレ…)
(泣き虫な郭yがかわいくて死ぬる)
ひとたび体を見れば、額の火傷痕など可愛らしいものだ。そう言ったのが誰だったか、伯済は覚えていない。しかし今初めて伯済は、その言葉を実感していた。目の前の身体が、何の問題もなく動いているのが、少しばかり不思議に感ぜられるほどの、ひどい、痕であった。
「……おそろしいか」
問われ、いらえようとして、伯済は自らが知らず息を詰めていたことに気が付いた。息を吐く音が、嫌に大きく聞こえた。伯済は、頷いた。
おそろしくないわけが、なかった。
けれど目の前の男が、その所作を見て顔を歪めるにあたり、伯済は自らが間違いを犯したことに気が付いた。あわてて、首を振る。
「いえ、いえ――ちがうのです、夏侯将軍」
「なにがちがう」
「将軍が、おそろしいわけではありません」
男が、すう、と、目を細める。信じられぬと言いたげな眼差しだった。そうして、伯済にだけ感ぜられるさみしさを顔に湛え、男は、言った。
「構わん。――恐れる方が、道理だ」
男は、床に抛り捨ててあった着物を、拾い上げた。なるべく見せぬようにとの所作で、伯済に背を向ける。たしかに表よりも傷の少ない背中は、しかし伯済をよけいに、どうしようもない心持にさせただけであった。
つまり、背に傷が少ない、その意味を。
どうしようもなく、伯済は必死で、手を伸ばした。
「――! 淮、何を」
伯済の白く細い手が、男の着物を掴む。男に比べれば児戯に等しい力で、けれど伯済は必死に、その着物を引っ張った。
「……淮、」
男が、困り果てた様子で、伯済を呼んだ。しかし伯済はふるふると首を振り、男が伯済を案じて力を込められぬのをよいことに、着物を手繰り寄せてぎゅうと胸に抱いた。
「こわく、ありません」
「……淮。こどものような真似をするな」
「こどものようでは、萎えますか」
「――は?」
「萎えるなら、――それが理由で、これを着て出て行かれるなら、お返しします」
わけがわからぬ、と言う顔で、男は伯済を見た。伯済は半ば睨むように、男を見返した。
「……萎えはしないが」
根負けしたように、男がばか正直にいらえた。そして、ため息とともに、言う。
「萎えたのは、お前だろう」
「何故です」
「……傷痕と言うのは、醜いものだ」
「みにくくなど、」
ありません、と。
答えた声が震えて、伯済は自分で驚いた。驚いた拍子に、ぽたり、と、抱いていた衣に染みが出来た。
「――淮」
男が僅か、狼狽えたような声を出した。その間にも、ぽたり、ぽたりと、どんどん、染みが増えてゆく。伯済は我が身のことであるのに呆然として、拭うことも出来なかった。
「……」
陰が。
伯済の細い体を覆うように、男が身をかがめた。伯済の手からそおと着物を取り上げ、無骨な指に似合わぬ繊細な所作で、伯済の目元に、衣を寄せた。
「意地を張るな」
男は、困ったような声で、言った。伯済はぼうと男の面を見て、その、苦く笑うような表情に、は、と、我に返った。そうしてあまりに勢いよく首を振ったせいで、男の手が、頬に当たる。
「っ、」
「だ、大丈夫か」
布が擦れて、頬がすこし、赤くなった。それだけのこと、直ぐにも消える程度のものなのに、男は奇妙なほどに慌てて、伯済の頬をそおと撫でた。
「すまぬ」
「な、んで」
あやまるんですか、と、伯済は、いっそ恨むような心持で尋ねた。男は、謝るようなことなど、なにひとつ、してはいなかった。謝らねばならぬのは、伯済のほうだ。
「怯えさせた上に、――傷まで」
「だから、違うと言っているでしょう!」
癇癪を起こしたこどものように、伯済は声を張り上げた。男が驚いたように目を見開くのを見て、伯済はむしろ怒りを駆り立てられたような気になって、さらに声を荒げた。
「あなたのことが怖いわけがない! どうして! こんなにもあなたのことが好きなのに! あなたを、怖がらなければならないんですか!」
「わ、淮」
「どうしてその、あなたの傷が、あなたが――戦い抜いて来た、証の傷が、みにくく見えると思うんですか!」
「淮、わかったから――」
落ち着け、と、宥める姿勢に入る男に、伯済は咬みついた。それはもう、言葉の通りに。
「――」
ぴり、と。
唇の薄い皮膚を破り、伯済の口の中に、男の血の味が広がった。伯済は、顔を歪めた。
「――こわいのは、」
伯済は、縋るように、男の肩に腕を伸ばした。
「こわいのは――その傷が、いつあなたを殺しても、おかしくなかったと言うことです」
あなたが。
しんでしまうのが、こわいのです。
伯済は、震える声で、そう零した。そのまま、男の肩に、うずめるように顔を寄せる。男はそおと伯済の身体に手を回して、やはりどこか、子供をなだめるような所作で、細い背中を撫でた。
「淮。……泣くな、淮」
「泣いてなど、」
「――我が軍師が、然様に泣くなら」
男は、ふ、と、男にはひどく珍しい、柔らかな息を吐いた。
「そう容易く、傷を負うわけにもいくまいな」
「……」
ぎゅう、と、伯済は男の体に回した腕に、力を込めた。
男が、こう言ってくれたのだから、もう、泣いてはいけない。
そう思うのに、涙はあとからあとから溢れだして、男の裸の、傷だらけの胸に落ちて、まるで今更に傷をいやそうとするかのように、つ、と、流れ落ちていくのだった。
(だけど礎は撤退計略ですというアレ…)
(泣き虫な郭yがかわいくて死ぬる)
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